もう何年前だろう？
遙か昔、思いでの彼方といってもよい昔。

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日本第二の高峰、厳冬期。
恐れを知らず、アタックしたことがある。

もう今では考えられないこと。
３０ｋｇ近い荷を背負い、３日間かけ、ピークを踏んだ。

下山をはじめた直後、頂上直下のこと。
強い風と横殴りの雪、凍り付いた道。

私はまだそのころコンタクトレンズをせず、眼鏡をかけていたが、
その眼鏡が横殴りの雪と自分の吐く息で凍り付き、
まるで何も見えない状況、
濃霧の中にいて、足下も見えないような状況であった。

登山道を外し、
あっ！滑り出したと思うまもなく、
１０ｍほどずるずると滑る。
必死で止める、止まる。

一気にからだの力が抜ける思いで、止まり、
同行者の手助けもあり、どうにか無事に登山道に戻る。

もう少し勢いがついていたら、
もう少ししっかり凍っていたら、
もう少し滑っていたら、
あのとき、死んでいた。


そして、今はなかった。

あのとき、あの年代のとき、すでにこの問題を抱えていた。
当時はなんだか正体もわからなかったが。
でも、あのとき死んでいたら、それで終わっていたはず。
その後の苦しみも、今の苦しみも何もなかった。
私を取り巻く人々の重荷もなかった。

それは確かに当時も私が帰らなければ悲しむ人はいた。
それでも、彼らは新しい道を、私のいない道を歩んでいたはずである。
その方がいかばかり幸せなことだったろう。

あれからずいぶんと経った今、
私は彼らの記憶の片隅にほんの少しだけ居座る思い出に
過ぎなかったはずである。


私はなぜ生き延びた？


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命あるものは必ず腐敗し、崩れ落ちる。
分解され、それぞれの原子または分子に戻り、
おそらくはやがて命にリサイクルされる。

森に倒れた私、
すぐにバクテリアが我が物顔に繁殖をはじめ、
そして、カビといわれる一群もほぼ相前後して加わる。

昆虫や動物も食べ出すだろう。

もうその段階で、私はリサイクルされていることになる。
次の命へ。
そして、さらに次の命へ。
巡り巡って、再び誰か人間の一構成原子となることもあろう。

そう思えば、私も無駄ではない。
ほかの命の役に立つ。
ほかの命に私をつなぐことができる。

今のままでは森に倒れる訳にはいかない。
微生物たちが、その仕事を本格化する前に、
人に見つけられてしまうかもしれない。
醜い私が人目に晒されてしまう。

微生物たちに任せる前に粉々に砕けてしまいたい。


それは無責任？
この閉塞感はいつ消えるの？